
いつものスーパーマーケット。ずらりと並ぶ商品の中から、今日の夕飯や、ちょっとしたおやつを選んでいるとき。ふと、パッケージに描かれたキャラクターと目が合って、思わず商品を手に取ってしまった…なんて経験、ありませんか?
棚に並ぶたくさんの商品の中で、私たちの注意を引きつけ、時には購入の決め手にもなるパッケージデザイン。中でも、愛らしい表情やユニークな姿をした「キャラクター」たちは、特別な存在感を放っています。彼らはただ可愛いだけじゃない。実は、食品メーカーが練りに練った戦略と、私たちの心の動きを巧みに利用した「パッケージデザイン心理学」に基づいて、そこにいるんです。
この記事では、普段何気なく目にしている食品パッケージのキャラクターたちが、私たちの心や買い物にどんな影響を与えているのか、その秘密に迫ります。読み終わる頃には、スーパーでの買い物がちょっと違った視点で見えてくるかもしれませんよ。
なぜ食品にキャラクター?「物言わぬセールスマン」のたくらみ
そもそも、なぜ食品のパッケージにキャラクターが使われるのでしょうか? 競争の激しい食品市場において、パッケージは「物言わぬセールスマン」とも呼ばれるほど重要な役割を担っています。特にキャラクターは、消費者の注意を引きつけ、ブランドとの間に感情的なつながりを築く上で、とても効果的なんです。
企業がキャラクターを使う方法は大きく分けて二つあります。一つは、その企業やブランドのためだけに作られた「オリジナルキャラクター」。もう一つは、アニメや漫画などですでに人気のあるキャラクターの「ライセンス」を取得して使う方法です。オリジナルキャラクターは、ブランド独自のメッセージを伝えやすく、長く使えば企業の顔として大切な資産になります。一方、既存の人気キャラクターは、すでにある知名度を活かして、すぐに注目を集めやすいというメリットがあります。
日本でキャラクターが食品パッケージに使われ始めた歴史は意外と古く、明治時代にまで遡るとも言われています。本格的に広まったのは戦後、テレビの普及と共に。1962年発売の「きゅうりのキューちゃん」では、商品名の由来にもなったキャラクター「キューちゃん」が登場し、人気タレントを起用したCMと共に広く知られるようになりました。駄菓子の定番「うまい棒」の「うまえもん」も、1979年の発売当初からパッケージを飾り、少しずつ姿を変えながらも、今なお多くの人に親しまれていますよね。
このようにキャラクターたちは、単なる飾りではなく、ブランドのメッセージを伝え、私たち消費者に親しみを感じてもらうための大切な戦略として、昔から活用されてきたのです。
思わず手に取る!キャラクターが私たちの心をつかむ仕組み
では、キャラクターは具体的にどのように私たちの心に働きかけているのでしょうか? ここで登場するのが「パッケージデザイン心理学」です。これは、パッケージの色や形、使われている文字や写真などが、私たちの感じ方や行動にどう影響するかを研究する分野。パッケージは、お店で商品を選ぶほんの数秒の間に、私たちの無意識に働きかけて、購入を後押しすることがあるんです。
キャラクターは、このパッケージデザインの中でも特に強力な存在。その理由はいくつかあります。
まず、「注意を引きつける力」。たくさんの商品が並ぶ棚で、キャラクター、特に顔のあるデザインは、私たちの目を自然と引きつけます。人間の脳は、顔や顔のようなパターンに反応しやすいようにできているのだとか。シンプルで印象的なキャラクターも、ごちゃごちゃした情報の中で際立ちやすいのです。
次に、「感情に訴えかける力」。キャラクターの表情や、背景にある物語を通じて、私たちは喜びや懐かしさ、安心感といった感情を抱くことがあります。こうした感情的な共感は、商品の機能説明だけでは得られない、ブランドとの強い結びつきを生み出すきっかけになります。キャラクターに人間のような性格や感情があるように感じる「擬人化」も、親近感を高める効果があると言われています。
そして、この注意喚起と感情への訴求が組み合わさることで、計画していなかった商品をつい買ってしまう、いわゆる**「ジャケ買い」**を引き起こすことも。パッケージの魅力だけで、「あ、これいいかも」と思わせる力があるんですね。
さらに、親しみやすいキャラクターは、**「ブランドへの信頼感や愛着」**を育むのにも役立ちます。繰り返し目にすることで、そのキャラクター=そのブランド、と記憶に残りやすくなり、「いつものあれね」と安心して選べるようになります。特に、毎日使うような食品では、商品名よりもパッケージの絵柄で商品を覚えていることも多いのではないでしょうか。
色、形、表情… あなたはどれに惹かれる?デザインの秘密
キャラクターが私たちの心に働きかける力を最大化するために、デザインの細部には様々な工夫が凝らされています。
- 色: 色は感情に直結します。例えば、赤は情熱やエネルギーを感じさせ、食欲を刺激するとも言われます。黄色は楽しさや親しみやすさ、緑は自然や健康、青は信頼感や落ち着きといった印象を与えやすいそうです。食品パッケージでは特に、赤、青、黒、白が購買意欲に影響を与えやすい「4大販売色」と呼ばれているとか。黒は高級感、白は清潔感を演出するのによく使われますね。
- 形: 形も印象を左右します。丸みを帯びた形は優しさや親しみやすさを、角張った形はシャープさや力強さを感じさせます。キャラクター全体のシルエットも、その性格を伝える重要な要素です。
- 表情: 表情は感情を伝える上で最も重要かもしれません。特に笑顔は、見る人にポジティブな印象を与え、親近感を高めます。目が大きい、顔が丸いといった、いわゆる「ベビーフェイス」な特徴を持つデザインは、可愛らしさや守ってあげたい気持ちを引き出す効果があると言われています。
- ストーリー性: キャラクターに性格や生い立ちなどの「物語」があると、私たちはより感情移入しやすくなります。単なるマークではなく、背景を持つ存在として記憶に残り、愛着が湧きやすくなるのです。
もちろん、これらのデザインはターゲット層によって使い分けられます。子供向けなら、明るい色やシンプルな形、大きな目など、楽しさや可愛らしさが強調されます。大人向けなら、少し洗練されたデザインで、品質や信頼性を表現したり、ユーモアやノスタルジーに訴えかけたりすることもあります。大切なのは、キャラクターが製品のイメージやブランドの伝えたいこと、そしてターゲットとする私たちの価値観に合っているかどうか、なのです。
長く愛されるキャラクターのヒミツ
では、どんなキャラクター戦略が成功しているのでしょうか? いくつか例を見てみましょう。
- うまい棒(うまえもん): 発売当初からパッケージに登場し、今では知らない人はいないほど。実は最初は耳があったそうですが、より親しみやすい形へと自然に変化してきたようです。消費者の声から名前が決まるなど、ファンとの交流の中で育ってきたキャラクターと言えるかもしれません。
- きゅうりのキューちゃん(キューちゃん): 発売当初からキャラクターを導入し、製品のリニューアルに合わせてキャラクターデザインも何度か変更されています。時代に合わせて変化しながらも、ブランドの顔として長く愛され続けています。
- M&M’S®(キャラクターズ): レッドやイエローなど、それぞれ個性的なキャラクターたちが世界中で大人気。「お口でとろけて、手にとけない™」のキャッチフレーズと共に、CMやグッズなど様々な場面で活躍し、ブランドイメージを確立しました。
これらの成功例を見ると、単に可愛いだけでなく、時代に合わせて変化する柔軟性や、ブランドとの一貫性、そしてキャラクター自身の持つ物語性が、長く愛される秘訣のようです。
一方で、キャラクター戦略には注意点もあります。どんなに人気だったキャラクターも、時代と共に古臭く感じられてしまう「陳腐化」のリスクや、ブランドイメージとキャラクターが合っていない「ミスマッチ」、せっかく作ったのにうまく活用できない「活用不足」といった課題も。キャラクターは、作って終わりではなく、継続的な管理と、時には変化していく勇気も必要なのかもしれません。
おわりに
いかがでしたか? 食品パッケージに描かれたキャラクターたちは、ただ私たちを楽しませてくれるだけでなく、企業の想いや戦略、そして私たちの心の動きまで計算された、奥深い存在だということがお分かりいただけたでしょうか。
次にスーパーでお買い物をする際には、ぜひお気に入りのキャラクターや、ちょっと気になるパッケージに注目してみてください。「この色は何を伝えたいのかな?」「この表情にはどんな意味があるんだろう?」なんて考えてみると、いつもの買い物がもっと面白くなるかもしれません。
そして、キャラクターを通じて、その商品やブランドとの間に、新しいお気に入りの関係が見つかるかもしれませんね。
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